痩身目的の医療用医薬品に潜むリスク!医薬品副作用被害救済制度の現実

目次

はじめに

最近SNS等で
「簡単に瘦せられる」
「メディカルダイエット」
「食欲をコントロール」

などを謳って、ダイエットをすすめる広告を見たことはありませんか?

若い女性をターゲットにしダイエットを目的として医薬品が処方されることがあります。

2型糖尿病の患者さんに対しての治療薬を、このようにダイエット目的で使用することは保険適用外ですので、安全性や有用性が確認されていないです。


今回は、そのお薬がどういう作用なのか、また本来必要のない人に使用した場合に、どのようなリスク等があるのかを、学びたいと思います。


GIP/GLP-1受容体作動薬の作用機序

ダイエットで使用されるお薬の類は、主に
GIP/GLP-1受容体作動薬
と呼ばれるものです。


大前提としてGIPもGLP-1も元々私たちの体のなかに存在するホルモンです。

GIP▶グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド
GLP-1▶グルカゴン様ペプチド−1

消化管ホルモンであるインクレチンの1つであり、小腸から分泌されます。

医薬品を用いてこれらを相対的に体内に増やし、結果的にインスリンの分泌も増やすことになります。

このインクレチンは
「血糖依存的にインスリン分泌を促進する」
ことから、古くからあるSU剤等と比較し、
低血糖になりにくい
というのが1番のポイントになります。


GIP/GLP-1受容体作動薬を使うことにより
血糖値が高いときにだけインスリンが出るように仕事をします。

その結果、低血糖を起こしにくく血糖値が下げ:ることになります。

医療用医薬品の種類

現在、7種類の医薬品がありますが(配合剤のゾルトファイを含めると8種類)、
GIP/GLP-1作動薬はチルゼパチドを成分とするマンジャロ・ゼップバウンドの2種類です。

GIPのみ▶ない
GLP-1のみ▶ビクトーザ・トルリシティ・オゼンピック・リベルサス・ウゴービ
GIP+GLP-1▶マンジャロ・ゼップバウンド

ビクトーザは2026年後半を目途に販売が終了します。

注射剤の中では唯一連日使用のため、患者さんの負担も大きかったと思います。

同じ注射剤であれば、週1製剤の方が楽ですし、また上には記載していませんが、ビクトーザは毎回注射針の取り外しが必要となります。

それであれば、注射針が製剤に組み込まれているマンジャロやトルリシティの方が手間もなければ感染リスクも減るので、それらを選択する人が多いと思います。

本当に必要な人に届かない


2025年12月現在、医薬品の供給が不安定なことが多いです。

ダイエットでこのような使い方をした場合、必要以上にお薬が消費され、本当に治療を必要とする2型糖尿病の患者さんにお薬が届かないことがあります。

マンジャロの製造メーカーの通知を遡ってみたところ、

2023年8月 限定出荷
2024年5月 限定出荷
2024年6月 通常出荷再開
という時期がありました。

実際にその時期は入荷できず、主治医や患者さんと相談して休薬したり、異なるお薬に変更したこともありました。

また、2023年8月のお知らせには、
「真に必要な患者様へ少しでも多く供給できますよう、適応外使用(美容・痩身・ダイエット等)は厳にお控えくださいますよう宜しくお願い申し上げます。」
という文章も記載されていました。


実例


①保険適応外


初めて行ったお店の大将(推定50代)に、薬剤師という職種であることをお伝えしたら、

「マンジャロ使ったことあるよ!あれ使うと胃の具合が悪くなるね!だから数回で止めたんだよね!」

とお話ししてくださいました。

ダイエット目的で使用したけれど数回で中止し、それから医薬品には頼っていないとのことでした。

「胃の具合が悪くなる」はおそらく「消化不良」になるかと思われますが、
電子添文を確認すると「5%以上」の頻度で「消化不良」の記載がありました。

貫禄のある腹部だったので、医薬品には頼っていないけれど、運動を日常的にしている様子もなかったです…。


②保険適用


2型糖尿病の患者さんが、DPP-4阻害薬やSGLT-2阻害薬で治療していても効果がなかったため、マンジャロ単独に切り替えました。

最初2.5㎎を4週間使用し、その後5㎎に増量。
さらに4週間後に7.5㎎に増量となりました。

切り替えてから著効を示し、4か月経ったころには体重は10㎏以上減量し、HbA1cも7.0%を切りました。

患者さん自身もあまりにも効果が発揮されていたので驚いていましたが、疲れやすくなった、とのことで1回5㎎に減らすことになりました。

現在は5㎎継続中で安定した体調で過ごされています。

電子添文を確認すると「1~5%」の頻度で「疲労」の記載がありました。

急激な体重減少が体力を奪った可能性も考えられ、患者さんも
「もうちょっと緩やかに体重が減っても良かったかな。」
と仰っていました。


医薬品副作用被害救済制度


実例では両方とも「副作用」が疑われる症状が出ています。
①は「消化不良」
②は「疲労感」

という症状です。

使用中止や規格変更により体調が改善し、入院が必要になるほどの健康被害は出ませんでした。

入院が必須の副作用が出た場合には、医薬品副作用被害救済制度が適応になる場合がありますが、①は保険適用外のため救済制度が使えないと思われます。

給付までの流れとしては

❶給付請求
❷判定の申し出
❸諮問
❹答申
❺判定結果の通知
❻結果通知・給付


となります。

医療費等に必要な費用は、
医薬品等製造販売業者が「一般拠出金」と「付加拠出金」
を賄っており、
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の事務費の2分の1に相当する費用を
国(厚生労働省)が「補助金(事務費)」
負担しています。

❻の給付の種類

私は医薬品副作用被害救済制度を活用したことある患者さんに出会ったことはないのですが、
医薬品医療機器総合機構(PMDA)のHPには支給された具体的な事例が載っています。

・40代女性。イブA錠を使用後、多形紅斑型薬疹を生じて入院加療を行い、医療費・医療手当が支給された。
・60代男性。イオメロン350注シリンジ135mL(イオメプロール)を使用後、アナフィラキシーショックにより死亡に至り、医療費・医療手当・遺族年金・葬祭料が支給された。

対象外となる健康被害

自費で処方してもらったマンジャロで入院が必要になった場合、

医薬品等の不適正な使用によるもの

になる可能性が高いため救済制度の対象外になる可能性が高いです。

1年の費用はどのくらい


医薬品医療機器総合機構(PMDA)のHPによりますと、
令和5年度の総支給額がなんと約23億円!!

決定件数が1240件で内訳は、
・支給決定件数が84.9%の1016件、
・不支給決定件数が16.2%の201件、
・取り下げ件数が1.9%の23件
です。

令和元年度~令和5年度に支給決定したの原因薬のランキングとしては

1位 解熱鎮痛消炎剤(1072件/10%)
2位 主にグラム陽性・陰性菌に作用するもの(856件/8%)
3位 抗てんかん薬(695件/7%)
4位 脳下垂体ホルモン剤(669件/7%)
5位 精神神経用剤(554件/5%)
です。

解熱鎮痛消炎剤が最も多いですが、これはドラックストアで市販薬が手軽に購入できるので副作用の出現率も高くなるのではないかと予想します。

糖尿病治療薬で副作用が出て入院しても、救済制度が適応されないと考えられるため、実際にはこのランキングには入りにくいことも予想されます。

おわりに

ある求人サイトには「ダイエットモニター」の募集がありました。

「50,000円の給与で、3カ月間糖尿病治療薬を使い続けてビフォーアフターの写真を提出する」
という、末恐ろしい内容です。

これで副作用が出た場合は医薬品副作用被害救済制度の適応外の可能性が高いです。

ダイエットは薬剤師国家試験と同じで日々の積み重ねが大切です。

テスト前夜に徹夜して結果が出るものではありません。

皆さんは「何事もコツコツ積み重ねる」という努力をおすすめします。

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